ソメイヨシノは、挿し木ではほとんど増えない——ガーデニングや樹木の世界では、これはよく知られた話です。江戸時代から接ぎ木で受け継がれてきた品種で、挿し木で根を出させるのは難しく、造園のプロでも成功率は低いとされています。
その挿し木に、ボウクスのスタッフが実際に挑みました。一年目は失敗。二年目、やり方を変えてついに発根にたどり着きました。2021年に始まった「桜プロジェクト」の、前半の記録です。
2021年|3Cの現場と、一本の桜との別れ
ボウクスが田園調布で進める開発プロジェクト 3C(Cedar Creek Community)。TND(Traditional Neighborhood Development=伝統的近隣住区開発)の考え方にもとづき、歩いて暮らせて、地域の記憶と自然が残るまちを目指す計画です。
その計画地に、樹齢50年を超えるとみられるソメイヨシノが一本ありました。当初は敷地内への移植も検討しましたが、設計上どうしても残すことも移すこともできず、やむを得ず伐採することに。毎年この桜の開花を楽しみにしていた近隣の方からも、惜しむ声が聞かれました。
そこで出てきたのが、挿し木でこの桜を次の世代につなげないか、というアイデアです。難しいのは承知のうえで、「やってみないとわからない」という気持ちでプロジェクトは動き出しました。
挿し木とは、枝や茎を切り取って土や水に挿し、発根させて新しい株として育てる方法です。親の木の遺伝子をそのまま受け継ぐので、同じ花を咲かせられます。ソメイヨシノはもともと接ぎ木や挿し木で増やされてきたため、遺伝子的にはすべて同じクローンだといわれています。
2021年夏|一年目の挑戦と、越冬できなかった苗
挿し木のブログを読みあさりながら、手探りで始めた一年目。直射日光を避けて室内に置き、乾かさないよう数時間おきに様子を見る日が続きました。9月にはいくつかの挿し穂で根を確認できた場面もありましたが、その後に葉が黄ばんで落ち、冬を越せずに枯れてしまいました。
枯れていないと信じて、いつまでも挿し穂を捨てられませんでした。
— 桜プロジェクト担当 杉崎(2021年)
あとから振り返ると、挿し穂を採る時期が遅かったこと、室内管理で日照が足りなかったことが大きかった。湿度は十分に保っていたつもりでしたが、それだけでは足りませんでした。この失敗が、二年目の教訓になります。


2022年5月|二年目の再挑戦、56本を仕込む
二年目は、採る時期を早め、準備を入念にしました。置き場所を室内から半日陰の屋外に変え、日光も適度に当てるように。「良い意味で少し肩の力を抜いた」ことも、結果的によかったのかもしれません。
2022年5月11日、56本の挿し穂を仕込みました。川崎本店の杉崎が土に挿す方法で中心になって管理し、相模原店では水に挿す別の方法でも育てました。
お客様にもたくさん応援していただきました。皆さんの応援が心の支えになったことは間違いありません。
— 桜プロジェクト担当 杉崎(2022年)

挿し木の手順(二年目の記録)
- 傷んだもの・虫食い・新芽は使わない
- 10〜15cmにカット。断面は斜めに(水を吸いやすくするため)
- 葉からの蒸散を抑えるため、葉は半分ほどにカット
- 活力剤「メデネール」を入れた水に1時間ほど浸す
- 赤玉土・鹿沼土・挿し木専用用土など、保水性と水はけのよい用土に挿す
- 細い枝が折れないよう先に穴を開け、発根を促す「ルートン」をつけてから植え込む
- 半日陰の屋外で管理。用土が乾いたら水をやる
2022年6月14日|「根が出ていました」
仕込みから約1か月。枯れたものを片づけようと苗や葉に触れていると、なにやら「いつもと違う、跳ね返してくるような感触」が。恐る恐る掘り返してみると——根が出ていました。
そしたら、なんと、根が出ていました!!
— 桜プロジェクト担当 杉崎(2022年6月14日)
この時点で56本中13本が生き残っており、そのうち複数本で発根を確認。「プロでも難しい」とされる挑戦が、現実になった瞬間でした。発根した苗はすぐ新しい鉢に植え替え、翌6月15日には追加で53本(追い桜)を仕込みました。

観察を続けると、新しい発見もありました。葉が元気に残っていても必ず発根しているとは限らず、逆に葉が少なくても根がしっかり伸びている鉢もある。外から見ただけでは中の状態は読めない、と実感しました。6月23日には「史上最大級の根っこ」が出た鉢も現れ、5月11日に仕込んだ初期メンバーの植え替えを終えました。
2022年夏|猛暑で全滅、桜の難しさを痛感
発根したあとは、夏の管理が次の山場でした。有志のスタッフの一人が苗を自宅に持ち帰って育ててくれていましたが、連日の猛暑で屋外のものは全滅。屋内の2本も、青々としていたのに週末を挟んで急に葉が枯れてしまいました。
いろいろな植物を挿し木で増やしてきましたが、あらためて桜の難しさを痛感しました。
— プロジェクト参加スタッフ(2022年夏)
発根すれば終わり、ではありません。そのあとも気温・水分・日照を丁寧に見ていくことが欠かせない。ソメイヨシノの挿し木がいかに繊細か、あらためて突きつけられました。

2022年秋から冬|小さな苗が紅葉する
猛暑を越えた苗は、秋にはきちんと紅葉しました。まだ小さいながらも季節にちゃんと応える姿に、生きている手ごたえを感じました。
こんなに小さな苗でも、ちゃんと紅葉してくれました。
— 桜プロジェクト担当 杉崎(2022年冬)

よくある質問
ソメイヨシノは本当に挿し木で増やせますか?
とても難しいとされています。ソメイヨシノは種ができにくい品種で、日本では伝統的に接ぎ木で増やされてきました。造園のプロからも「難しい」と言われましたが、このプロジェクトでは二年目(2022年)の再挑戦で発根に成功しました。
一年目に失敗した原因は?
挿し穂を採る時期が遅かったことと、室内管理による日照不足が主な原因でした。二年目は採取を早め(5月)、半日陰の屋外で管理したことで発根にこぎつけました。
挿し木に向いた時期はいつですか?
このプロジェクトでは、2022年5月上旬に採取・仕込みを行い、6月中旬に発根を確認しました。芽吹き後の新梢が落ち着く5月前後が、根を出しやすい時期と考えられます。
どれくらい生き残りましたか?
2022年5月に56本を仕込み、6月14日時点で13本が生き残って、そのうち複数本で発根を確認しました。その後、追加で53本も仕込んでいます。
前編を終えて
一年目の失敗があったからこそ、二年目の発根はうれしいものでした。「プロでも難しい」と言われたソメイヨシノの挿し木を、実際にやり遂げたスタッフと、応援してくれたお客様のおかげで、この記録は続きます。
後編では、苗がさらに育ち、相模原店で花を咲かせ、そして3Cへ「里帰り」するまでをお伝えします。