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樹齢50年の桜のDNAを、次世代へ繋いでいく — 挿し木への挑戦(前編)

3Cの計画地に立っていた、樹齢50年以上と推定されるソメイヨシノの大木

3Cの計画地には、樹齢50年以上と見られる一本のソメイヨシノがありました。設計の制約から、残すことも移植することも叶わなかったその桜を、どうにか次の世代へ渡せないか——。挿し木でDNAを継ぐという、5年にわたる記録の前編です。

ソメイヨシノは、挿し木では増えない

ソメイヨシノは挿し木でほぼ増やせない——これは樹木を扱う人のあいだでは、半ば常識として知られています。ソメイヨシノは江戸時代から接ぎ木で増やされてきた品種で、挿し木の発根成功率は非常に低い。造園業の方々からも「桜の挿し木は難しいでしょう」と心配する声をいただきました。

それでも「やってみないとわからない」と挑んだ記録です。1年目は失敗しました。2年目、試行錯誤の末にようやく発根を確認しました。

2021年 — 50年生のソメイヨシノとの別れ

当社が田園調布で手がける開発プロジェクト 3C(Cedar Creek Community)TND(伝統的近隣住区開発)の理念に基づき、歩いて暮らせる街区と、地域の記憶や自然との共生を重視した街並みをつくるプロジェクトです。

その3Cの計画地に、樹齢50年以上と推定されるソメイヨシノが1本ありました。当初は敷地内への移植も検討しましたが、計画を進める中でそれも叶わず、やむを得ず伐採することになりました。毎年この桜の開花を楽しみにされていた近隣の方々からも、惜しむ声が聞かれました。

そこで生まれたのが、挿し木によってこの桜を次の世代へ継承するというアイデアです。

挿し木とは、植物の枝を切り取って土や水に挿し、発根させて新しい個体として育てる方法です。親となる木の遺伝子をそのまま受け継ぐため、同じ花を咲かせることができます。

ポットに挿し、トレイに並べた1年目の桜の挿し穂
1年目、採取した枝を挿し穂に仕込む(2021年7月)

2021年7月 — 1年目、発根まであと一歩

挿し木に関するブログを読み漁り、手探りで始めた1年目。直射日光を避けて室内に置き、乾燥させないよう数時間ごとに様子を確認する日々が続きました。9月には一部の挿し穂で発根を確認する場面もありましたが、その後、葉が黄色く変色したり落ちたりし、最終的には枯れてしまいました。

枯れていないと信じて、いつまでも挿し穂を捨てることができませんでした。
— 桜プロジェクト担当 杉崎(2021年)

振り返ると、挿し穂の採取時期が遅かったこと、そして室内管理による日照不足が失敗の大きな要因でした。発根に重要な湿度は十分に保っていたのですが、それだけでは足りなかったのです。かなり過保護に育てたことも、かえって裏目に出たのかもしれません。この経験が、2年目の教訓になります。

乾燥を防ぐためペットボトルをかぶせて管理した挿し穂
乾燥を防ぐため、ペットボトルをかぶせて湿度を保つ(2021年)

2022年5月 — 2年目の再挑戦、56本を仕込む

2年目は、失敗を教訓に採取時期を早め、入念に準備を重ねました。管理場所も室内から半日陰の屋外へ変更し、適度に日光を当てるようにしました。「良い意味で少しだけ肩の力を抜いた」ことも、功を奏したかもしれません。

2022年5月11日、56本の挿し穂を仕込みました。川崎本店では土に挿す方法で、相模原店では水差しという別の方法で、2つの拠点が並行して挿し穂を育てました。本店・本社のスタッフも道具の準備や休日の水やりで力を貸し、複数拠点が一体となってプロジェクトを支えました。

お客様にもたくさん応援していただきました。皆様の応援が心の支えになり、結果を結んだこと間違いありません。
— 桜プロジェクト担当 杉崎(2022年)

ラベルを付けたポットに並ぶ、2年目に仕込んだ56本の挿し穂
2年目、56本を仕込む(2022年5月11日)

挿し木の手順(2年目の実施記録)

  1. 傷んだもの・虫食い・新芽は使わない
  2. 10〜15cmにカット。断面は斜めに(水分の吸収を高めるため)
  3. 葉からの蒸散を抑えるため、葉を半分ほどにカット
  4. 活力剤「メデネール」を入れた水に1時間ほど浸す
  5. 赤玉土・鹿沼土・挿し木専用用土など、保水性と水はけに優れ、肥料を含まない用土に挿す
  6. 細い枝が折れないよう予め穴を開け、発根促進剤「ルートン」を付けてから植え込む
  7. 半日陰の屋外で管理し、用土が乾いたら給水する

2022年6月14日 — 記念日

仕込みから約1か月。枯れてしまったものを整理しようと苗や葉に触れていると、なにやら「いつもと違う、跳ね返してくるような感触」がありました。恐る恐る掘り返してみると——根が出ていました。

そしたら、なんと、根が出ていました!!
— 桜プロジェクト担当 杉崎(2022年6月14日)

この日、56本中13本が生き残っており、そのうち複数本で発根を確認しました。「プロでも成功率は低い」とされた挑戦が、現実になった瞬間です。発根した苗木はすぐに新しい鉢へ植え替え、さらに追加で53本の挿し穂を仕込みました。

掘り返して発根を確認した挿し穂の株元
「跳ね返してくるような感触」の正体は、根だった(2022年6月14日)

観察を続けると、新たな発見がありました。葉が元気に残っていても必ずしも発根しているとは限らず、逆に葉が少なくても根がしっかり伸びている鉢もある。植物の状態は、外から見るだけでは読めないと実感しました。6月下旬には紙のポットを突き破るほどの根が確認された鉢も現れ、5月11日に仕込んだ初期メンバーの植え替えを完了しました。

2022年 夏 — 猛暑、自宅で預かった苗が全滅

発根に成功しても、夏の管理が次のヤマ場でした。有志で参加したスタッフのひとりが苗木を自宅で育てていましたが、連日の猛暑で屋外管理のものは全滅。屋内管理の2本も、青々としていたのに週末を挟んで突然葉が枯れてしまいました。

今までいろいろな植物を挿し木で増やしてきましたが、改めて桜の難しさを痛感しました。そして、その難しい桜を発根させた杉崎さんへのリスペクトが増しました。
— プロジェクト参加スタッフ(2022年夏)

発根すれば終わりではなく、その後も気温・水分・日照の管理を丁寧に続けることが不可欠でした。

ベンチに並べて管理する、植え替え後の桜の鉢
発根後は気温・水分・日照の管理が続く(2022年夏)

2022年 秋〜冬 — 小さな苗が季節を刻む

猛暑を越えた苗木は、秋になると紅葉しました。まだ手のひらほどの苗が、きちんと季節に応じている。その姿に、生命の確かさを感じました。

こんなに小さな苗でもちゃんと紅葉してくれました。
— 桜プロジェクト担当 杉崎(2022年冬)

葉を赤く染めた、まだ手のひらほどの桜の苗
小さな苗も、きちんと季節に応じて紅葉した

よくあるご質問

ソメイヨシノは本当に挿し木で増やせるのですか?

極めて難しいとされています。ソメイヨシノは種が結実しない品種で、日本では伝統的に接ぎ木で増やされてきました。造園業の方からも「難しい」と言われましたが、当プロジェクトでは2年目(2022年)の再挑戦で発根に成功しました。

1年目に失敗した原因は何でしたか?

挿し穂の採取時期が遅かったこと、そして室内管理による日照不足が主な原因でした。2年目は採取時期を5月に早め、半日陰の屋外で管理することで発根に至りました。

挿し木に適した時期はいつですか?

当プロジェクトの実績では、2022年5月上旬に採取・仕込みを行い、6月中旬に発根を確認しました。芽吹き後の新梢が落ち着く5月前後が、発根しやすい時期と考えられます。

成功率はどのくらいでしたか?

2022年5月に56本を仕込み、6月14日時点で13本が生存、うち複数本で発根を確認しました。その後、追加で53本を仕込んでいます。おおよそ1〜2割程度です。

前編を振り返って

1年目の失敗があったからこそ、2年目の発根がより深い喜びになりました。「プロでも難しい」と言われたソメイヨシノの挿し木を実際にやり遂げたスタッフと、応援してくださったお客様のおかげで、この物語は続いていきます。

後編では、苗木がさらに成長し、相模原店で初めて花を咲かせ、そして3Cへ「里帰り」を果たすまでの記録をお伝えします。

後編:桜、故郷へ還る — 3C田園調布での開花 →

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